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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
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IoTで高速バスの事故・トラブルを先回りで回避。WILLER EXPRESSが実現した安全性の秘密

都市間を走るピンクの高速バス「WILLER EXPRESS」。全国20路線、297便を毎日運行し、全国9カ所に営業所を展開する。長距離バスに乗る人にはお馴染みの存在だが、安全のためにその運行がどう管理されているかはあまり知られていない。同社は2006年以降、高速バス業界ではいち早くIT技術を導入。近年ではIoTの最新技術と乗務員の健康経営で、高い安全性を実現するなど、常に業界の常識を更新している。こうした最新機器を積極的に取り入れた取り組みについて、WILLER EXPRESS株式会社で運行管理を統括する三浦文久氏に詳しく伺った。

眠気の予兆を感知する富士通の機器「フィーリズム」

新しいものをどんどん取り入れる。WILLER EXPRESSに対してそんなイメージをもつ人も、業界では少なくない。それを示すものの一つが、最新のIoT技術を活用したリアルタイムの運行管理体制だ。

一般の方には馴染みがないが、もともと緑のナンバープレートをつけた旅客自動車には、走行時間や速度などの運行を終始記録するデジタル・タコグラフ(デジタコ)という機器の装備が義務付けられている。急減速、急加速、急旋回、極端な揺れ(角度)の変化、またバスジャックなどが起きた際には、営業所で待機する運行管理者に「アラート」としてそれらが伝わる。安全な運行には欠かせない機器だ。

同社は2016年にIoTを活用した運行支援や健康経営の強化でこれを一新。例えば、乗務員の疲れや眠気の予兆を検知するIoT機器「フィーリズム」をデジタル・タコグラフ(デジタコ)とBluetoothで連携できるようにした。フィーリズムは富士通が同社と共同開発したもの。一見イヤホンのようだが、本体を首にかけ、センサー付きのイヤークリップセンサーを左耳たぶに付けることで、乗務員の自立神経から心拍変動の状態の脈波をもとに、自分でも気が付かない疲れや眠気の予兆を検知してくれる。

一定のしきい値を下回る/上回ると、本体のバイブレーションで乗務員に知らせると同時に運行管理者システム上にアラートが届く。乗務員本人も気が付かない体調の変化を、乗務員と運行管理者に同時に知らせてくれる。これを同社の乗務員は運行時に必ず装着していると三浦氏は話す。

 

「自律神経というのは自分では分からない潜在意識的なものですが、私たちは覚醒時の自律神経の基準値を個々にもっています。フィーリズムはそうしたデータを学習する。着装回数が増え測定や判定を繰り返すことで精度が高まり、本人にもわからない潜在的な眠気の予兆を的確に察知することができます」

 

これに加えて、同年の2016年には、デジタコとドライブレコーダーとの連携も実現した。前方、運転席、客席、車体左右についたカメラが映し出す映像も、リアルタイムで運行管理者が確認できるようになり、より運行の異変に気付きやすくなった。

事故やトラブルを未然に防ぐ

こうしたリアルタイムの運行体制が素晴らしいのは、事故を未然に防げることだ。「そろそろ眠気を感じ集中力が低下しそう」「急ブレーキ急ハンドルが多くなってきた」といった乗務員の体調の変化に即時に気づき、事故の予兆を発見できるようになった。デジタコがフィーリズムやドラレコと連携していなかった従来の運行体制と比べて、三浦氏はこう言う。

 

「以前は急ブレーキや事故があった場合、アラートが入ることで運行管理者はそれらを瞬時に把握することはできましたが、いずれにしても“事”が起きた後でした。先回りをしてトラブルを防ぐことは難しかったのです」

 

こうした運行体制を同社が整えたのは2016年のこと。合わせて、乗務員の健康管理にも力を入れた。本社営業所に常駐の保健師が社員全員の健康状態を把握し、適宜検査の受診を義務付けた。また東京にある新木場BASEと呼ばれる乗務員の宿泊棟では、健康を意識した低カロリーの食事を提供する「新木場DINING」という食堂や乗務員が快適に休息できるベッドや浴室を完備。快適な食事と睡眠を支援し健康管理を徹底することで、健康に起因する事故防止に務めている。

こうした取り組みには、業界内で長距離バスの重大事故が発生していたことが背景にある。重大事故のメカニズムを分析した結果、乗務員の脳梗塞や心筋梗塞などの疾患と、運転中の居眠りという、乗務員の健康状態に起因するものが多い。こうした生活習慣病や居眠り運転のリスクは誰でも持ちあわせているものだ。

職人気質の乗務員の意識が変わった

バスの乗務員といえば運転のプロであり、やや職人気質な一面もある。フィーリズム導入の際には、彼らの理解を得るのに苦戦した、と三浦氏は振り返る。

 

「最初は『こんな機械に頼らなくても』という声も多数上がりました。そうした意見に対しては、『万が一、が起こらないようにサポートしてくれ自分を守ってくれる機械ですよ』と、運転者目線で丁寧に説明をしてご理解いただきました」

 

自分自身でも気が付かない潜在意識を客観的に捉えることができる。三浦氏は乗務員の技術を尊重しながらも、機器のメリットを伝え続けた。嬉しいことに、今ではこんな事が起きているという。

「乗務の後に乗務員と運行管理者で行う点呼の際に、乗務員の体調の振り返りが自然と行われるようになりました。それまでは、目的地に到着した時点で『任務終了』となっていた心もちが、導入後は、体調に関するフィードバックの声がよく上がるようになりましたね」

具体的には、運行終了後にはデジタコから運転日報が出力されるのだが、そこにはフィーリズムが感知した眠気の予兆を表す棒グラフが表示される。それを運行管理者と乗務員が共に確認することで、「あの時少ししんどかったな」「今回は体調万全でできた」などと容易に振り返ることができるのだ。営業所全体でこうした体調への意識が高まったのは、フィーリズム導入の大きなメリットといえる。また、このようなデータは、運行計画の見直しや乗務員毎の特性から乗務割作成にも活用しています。

高速バスは自動運転化が遅れている。未来の高速バスの姿

未だコロナ禍以前ほどではないが、最近では3回目のワクチン摂取も進み、同社の利用状況は回復しつつある。学生の卒業旅行や若い世代のテーマパークやライブ目的の需要などが増えているのだ。

 

一方で、業界的には前々から言われてきた乗務員不足が顕著になっている、と三浦氏。乗務員の負担軽減を含む働き方が問われる時代。その打開策の一つとして今後発展していくのが、大型バスの自動運転化だと三浦氏は指摘する。

 

「公共交通機関のなかで、飛行機の操縦や電車の運転は自動化されていますが、高速バスはまだ自動運転が整っていません。今後間違いなく発展していきますが、完全にサービスがシステム化される訳ではなく、システムが担うことと人が担うことが整理されていくと思います。機械は安全性を担保してくれますが、それだけでは快適性を追求することはできません。そこはやはり人の腕があってこそだと思います」

 

運行管理をする人の働く環境が整備され、より高い安全性と快適性の両方が実現していく。そうしたサステナビリティ経営の実現が、未来の高速バスに求められている。

三浦 文久

Fumihisa Miura

WILLER EXPRESS株式会社 本社営業所兼運輸本部付統括運行管理センター長

2015年4月入社。入社後は本社部門での勤務を経て、2016年よりWILLER EXPRESS名古屋営業所、2018年よりWILLER EXPRES本社営業所へ異動し、運行管理者として実際に運行の現場に立ち、運転者の乗務割作成、点呼業務等を担う。2021年1月以降は運輸本部付統括運行管理センター長として、WILLER EXPRESSグループ全体の運行管理業務の側面補助及び緊急時対応業務等を行っている。

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取材:池尾優

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