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アナログとデジタルのあいだ

丁寧な生活を優先し、てまひまかけて仕事に向きあう人たち。オフラインを充実させながら、実用的にオンラインを取り入れてるリアルな姿とこだわりを学ぶ。

1学年で5人のJリーガー輩出の興国高校サッカー部「育成を追求した先にオンラインツール」

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熱戦が繰り広げられた2020年度全国高校サッカー選手権。同大会では山梨学院高校(山梨代表)が、優勝候補の青森山田高校(青森代表)をPK戦で破り、優勝をとげた。青森山田高校からは藤原優大がプロ選手としてJ1浦和に加入、タビナス・ポール・ビスマルクもJ3岩手へ進む。この大会においては、昌平高校(埼玉代表)が最多のプロ輩出学校となっており、4人もの選手が次のステージで勝負することになる。しかし、それを上回るのが大阪の興国高校だ。全国の舞台には立てなかったが、5人もの選手がJクラブへ加入する。「関西のバルセロナ」という異名を誇り、全国で優勝するだけでなく、選手が成長することを最優先する同校において、デジタルの導入は不可欠だった。監督の内野智章氏に話を聞いた。

内野智章

興国高校サッカー部監督

興國高校サッカー部監督。
1979年、大阪府堺市生まれ。小学校3年の時、地元の白鷺サッカー少年団でサッカーを始める。1995年、初芝橋本高校1年時に全国高校サッカー選手権大会に出場し、ベスト4進出。高校卒業後、高知大学へ進学。卒業後、愛媛FC(当時JFL)に入団するも原因不明の病気が原因で1年で退団、引退。2006年より興國高校の体育教師、およびサッカー部監督に就任。これまで全国大会の出場はないが、毎年コンスタントにプロ選手を輩出するなど、個性のある選手育成に定評があり、近年、注目される指導者。

トップダウンとボトムアップの融合を目指した指導

全国高校サッカー選手権、大阪予選の準々決勝で敗退した興国高校ではあるが、GK田川知樹、DF平井駿助、MF南拓都、MF樺山諒乃介がJ1横浜入り、FW杉浦力斗のJ2金沢入りする。かつて全国選手権に出場し、JFLでプレーした内野智章監督が就任したのは2006年。数人しかいなかったサッカー部は、いまや約300人が所属するチームに。就任当初から個々の育成をモットーに攻撃的なサッカーを貫いた。これまで全国大会への出場は1回のみであるが、20人以上ものプロサッカー選手を輩出し、日本代表でJ1神戸に所属する古橋亨梧もOBの1人である。

 

「僕は監督という立場ですが、選手の自立を尊重しています。例えば、練習や出場選手は学生たちが自ら考えるという仕組みをとっているんです。自分たちが目指す目標を掲げ、そして、それを日々の練習に落とし込み、また必要な選手を考える。各学年から数人のキャプテンを決めているので、彼らがそれを率先して行います。僕が各世代の個性や技術を踏まえて、大まかな方向性を決めるんですが、それ以外は彼らが判断して決めます。日本人のマインドとして、僕が指示を出すと、学生らの思考が支配されてしまいますからね。できるだけ、自分たちで考えるようにしています」(内野監督)

トップダウンとボトムアップの融合を目指す興国高校では、こうやって選手本人が意思をもってサッカーに挑み、自分の意見をアウトプットするスキルを磨いている。プロ選手を志す者にとって、プロ契約はゴールでなく通過点。むしろ、Jリーガーの引退の年齢は低く、プロに入ってから本当の勝負が待っている。その中で、柔軟性をもって生き延びるには、サッカーの技術だけでなく、人間性の部分が大きいと内野監督は捉えている。学校の先生でもある立場から全てを容認するわけでなく、タイミングをみて介入しているそうだ。

長期的な成長の“きっかけ”を優先するために

Jリーグチェアマンに会う機会に恵まれた内野監督は、「Jリーグに毎年のように選手を送ってくれてありがとうございます」と声をかけられた。そこで、育てることの重要さを感じ取ったという。勝つことだけでなく育てること、それこそが内野監督の教育方針となる。

 

「今回、マリノスに4人の学生が進むのですが、J1ではなくJ2に行ったほうがいいんじゃないかなとも思いました。そう悩んでいた時に、マリノス側から『日本のサッカーの未来を考えて一緒に仕事しよう』とお声かけいただいた。マリノスのためだけでも、興国高校のためだけでもない、日本のサッカーの未来のためです。かの松下幸之助さんは、『企業は社会の公器である』と語っていました。これは自社の成功だけを願ったのではなく、業界そのもの、世の中そのもののために努力するという姿勢を表したもの。マリノスの方のお話がそれに繋がったんですよね」(内野監督)

全国高校サッカー選手権は、一つの夢舞台ではある。ここでの活躍から、人生の選択肢を増やした学生は何人もいる。一方で、同大会が目標となりすぎるため勝敗の追求が強まった。いま、育成を重視するためのリーグ戦が全国的に導入されている。また、地域を超えて独自リーグとして2020年にはじまったのが、アルティマリーグだ。興国高校はじめ、昨年度の選手権優勝校の静岡学園高校(静岡)、昌平高校、尚志高校(福島県)など、全国の強豪校が集まって開催される大会だ。

 

「元奈良育英高校の上間先生や暁星高校の林先生、元流経大柏高校の本田先生(現・国士舘テクニカルアドバイザー)ら多くの先輩が、全国のリーグを立ち上げ、また整備して日本のサッカーのためと動いてきました。しかし、それに続く動きが長らくなかったのが現状です。静岡学園高校の川口監督と、『静岡学園高校と興国高校高校が常に試合していたら強くなるよね、ここに昌平高校がいたら面白くなるよね』という何気ない会話から始まったリーグです。双方でレベルを向上させて、日の丸を背負って世界で活躍できるような選手を輩出するんです」(内野監督)

目の前の結果ではなく、長期的な成長の“きっかけ”を優先する内野監督。そんな興国高校の監督も、デジタルをチーム内に導入している。

サッカーノートにはないスプライザの魅力

同校が導入しているのが、スポーツのビデオ分析アプリ「スプライザチームス」である。映像を用いて複数人で振り返り・分析ができる“映像版部活ノートアプリ”といえる。現在、サッカーをはじめバスケットボール、ラグビー、テニス、バレーなど高校部活動を中心に利用している。レスリングやダブルステニスなどは、ナショナルチームも利用している。

試合や練習中の動画を撮影し、アプリに入れることで、動く選手同士を線で結んでフォーメーションを目視することができる。また、良いプレーや悪いプレーに印をつけて種類分けする「タグ付け」機能を搭載しており、プレイ中に本人が見えていない部分が明確になり、戦術を理解しやすくなるのだ。選手自身が映像を編集することで、主体性に活動に取り組む姿勢を養っている。興国高校では、コロナの影響で全体練習ができなかった昨年度、過去の試合・練習の動画を選手たちが再編集し、自身のプレーを集めた動画を作成した。

「これまで、チームで共有した動画をYouTubeにアップしていたのですが、一試合アップするだけでも相当な時間がかかります。スプライザはアップロードが早く、すぐにタグ付もでき、スマホでも扱いやすい。LINEを通じてキャプテンらが、『何分のシーンを見てくれ』と発信すれば、皆が瞬時に確認することができる。どこにいてもディスカッションが可能なんですよね」(内野監督)

 

試合や練習の振り返りについては、長らくサッカーノートとして筆記でのやりとりが、高校サッカーには根付いていた。内野監督は文字で表現することの教育的なメリットを感じつつも、全寮制はない興国高校は通学する学生が主であり、電車時間を有効に使う必要があった。

 

「サッカーノートだと、監督は学校でしか読めません。何十人のノートを持ち運ぶことができませんから。ですがLINEだと、いつでもどこでも何をしていても読むことができます。また、ノートだと読んでから返事を書き、学生の手元に返却するまで時間がかかりますが、LINEを使うことでここもクリア。試合後、帰宅するころには反省点を共有できています。あの時あの場面で何を考えていたのか、何が起きていたのかを即日確認できますし、そこでディスカッションもできます」(内野監督)

 

鉄は熱いうちに打て、その指導方針には背景がある。興国高校では、2009年から毎年スペイン遠征を行なっている。そこで知り合った現地の日本人指導者の話にヒントがあった。その彼は、現地でジュニア世代の監督を任せられたのだが、リーグ戦の最中にオーナーに呼ばれて、「なぜ試合中にコーチングしないのだ」と言われた。日本人指導者は、試合中に細かくメモをとり、そしてハーフタイムや試合後にそれらを共有して修正を行なっていることを伝えたものの、「お前はバルセロナの監督でもやっているのか」と叱責を受けたという。

 

「そのオーナーの話だと、試合後の指導ももちろん大事だが、終わったことについて言うのは、誰だってできる。バルで飲んでいるおじさんと同じことだと言われたのです。その瞬間瞬間に指導し、修正できるからコーチはお金をもらっているのだと。もっとベンチで戦え、黙って見ているんじゃないということなんです」(内野監督)

 

便利だからオンラインツールではなく、育成を追及して行き着いたのが、コミュニケーションのスピードアップ。「今」教えることを優先すると、ノートでは時間がかかりすぎるのである。

 

「マンチェスターシティのグアルディオラ監督や、アトレチコマドリーのシミオネ監督、リバプールのクロップ監督らを想像すると、ベンチでの喜怒哀楽がすごいです。ことサッカーにおいては、コミュニケーションのスピードアップが重要だと思っています。ですので、僕はノートではなくオンラインツール。日々の気づきについて、選手らと素早く交換することを優先しています」(内野監督)

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取材:上沼祐樹

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