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アナログとデジタルのあいだ

丁寧な生活を優先し、てまひまかけて仕事に向きあう人たち。オフラインを充実させながら、実用的にオンラインを取り入れてるリアルな姿とこだわりを学ぶ。

20分かけて点てるお茶の意味。 茶道が育む肉体的感覚と強い精神

  • アナログとデジタルのあいだ

忙しないいまの時代において、てまひまかけて日々の暮らし、仕事に向き合う人がいる。この連載では、そんなアナログとデジタルをうまく両立させ、邁進する人をフォーカス。健やかな暮らしのヒントを尋ねる。

 

日本を代表する文化、茶道。千利休による侘び茶の確立から続く歴史は、500年以上となる。そんな由緒ある伝統文化の世界で、オンラインショップの運営からクラウドファンディングへの挑戦、またヴァーチャルお茶席体験など、独創的な取り組みで注目されるのが、ベルギー出身の茶人、ティアス宗筅さんだ。日本に暮らして13年の彼が茶道で心得たという、生き方の姿勢について伺った。

ティアス宗筅

Tyas Sōsen

茶ノ実鶴園(The Tea Crane) 代表

京都を拠点にしながらも、国外のファンやコネクションも多いベルギー出身のティアスさん。16歳で宮本武蔵の小説を読んだのがきっかけで、日本学科のある大学へ進学。日本留学中に、剣道、空手、能楽などの伝統文化を学ぶうちに、茶道に専心。大学院卒業後は京都の老舗のお茶屋さんに勤める傍、日本茶の資格を取得し、茶道では師範となった。ティアスさんは、自らの人生を変えた茶道を「日本文化の小さな宇宙」と表現する。

ティアス宗筅

茶道は日本文化の小さな宇宙

茶道は日本文化の小さな宇宙

京都を拠点にしながらも、国外のファンやコネクションも多いベルギー出身のティアスさん。16歳で宮本武蔵の小説を読んだのがきっかけで、日本学科のある大学へ進学。日本留学中に、剣道、空手、能楽などの伝統文化を学ぶうちに、茶道に専心。大学院卒業後は京都の老舗のお茶屋さんに勤める傍、日本茶の資格を取得し、茶道では師範となった。ティアスさんは、自らの人生を変えた茶道を「日本文化の小さな宇宙」と表現する。

茶道

「茶道には、陶芸、書、花、庭園といったあらゆる日本の文化要素が絡み合っています。最初はお点前のお稽古から始まりますが、お茶席を開くようになると、茶室の準備から茶碗などの道具探し、床の間のお軸や花選びなど、思考は様々に及びます。その思考はやがて日常へと広がり、茶道がライフスタイルになってくるのです」

 

そもそも茶道とは、お茶を飲むだけのものではないと彼は続ける。茶道の教えには、中国の儒教や道教、また禅や仏教の思想が多く含まれている。歴史を遡ると、もともと茶道は武家茶道に始まり、大名クラスの武将が生活の一部として取り入れていた。茶道を学ぶとこういった思想、考え方、さらには生き方を学ぶことになる。

一瞬一瞬を意識して生きる

一瞬一瞬を意識して生きる

ますます便利になりスピードが加速する現代において、ティアスさんが気をつけているのは「意識して生きる」ことだと言う。現代の言葉でいう「マインドフルネス」。具体的には何を行うのか。

 

「朝の儀式を大切にしています。起きたらまず水シャワーを浴び、お茶を点てて飲み、呼吸法と瞑想をして1日を始めます。実は、朝の頭は「あれもこれもしなきゃ」と混乱しています。さらに日中は、様々な刺激で徐々に頭は乱れていきます。なので、今日は何にフォーカスするか?などと1日を見つめ直してからスタートすると、最も高い意識のところから坂下りを始められるのです」

極力食べない

朝の儀式を終えた後も、ティアスさんの意識は様々なことに向けられる。その一つが「極力食べない」こと。1日3食のルールに沿って食べるのではなく、実際にお腹が空いた時に必要な分だけを食べるように心がける。一見簡単に思えるが、物が溢れ、惰性で食べることも多い現代では、これも、自分の肉体的感覚に意識を向ける訓練といえそうだ。そういった“意識した生き方”を現代人に教えてくれるのが、茶道を含む伝統や儀式、また古来の知恵なのだと彼は言う。

「3時間もあんな狭い所にいるの?20分もかけてお茶を点てるの?といった反応をよく聞きますが、茶道が古いと思われるのは“遅い”からではないでしょうか。現代人は、時間のかかることに我慢できなくなっています。掃除ロボットを動かしながらamazonで買い物し、SNSをチェックする。多数のことを同時に行なう生活では、あらゆる外的要因に注意を取られ、自分を見つめる時間がありません」

 

このような現代生活は「マルチタスキング」。対して、かつては「モノタスキング」な暮らしが当たり前だった。

 

「昔の人は、お茶会を開くにも今の何倍もの時間をかけていました。お誘いの手紙を出したら届くのに数日はかかるでしょうし、床の間に生ける花も山に登って探してきます。事がゆっくり運ぶ暮らしでは、一つのことを見つめ、とことんやることができるのです。そのことを、昔の文化は教えてくれます」

オンラインショプから実店舗オープンへ

お茶の学びを深めた後、2015年にティアスさんは日本茶のオンラインショップをオープン。国外向けなので英語表記のみ、有機栽培のお茶だけを扱うことにした。理由をこう話す。

「お茶について調べるうち、有機栽培のお茶というのは100年前のお茶と同じということに気づいたのです。日本では13世紀から栽培されてきましたが、肥料や農薬、機械化が進み、ここ100年でお茶の味はだいぶ変わったはずです。私のお店ではそんな“本来のお茶”を届けたい。特に欧米では、近年食品の安全性への意識がぐんと高まり、お茶も有機であることが前提になっています」

そうして国外のファンを増やしていたところに起きた、2020年のコロナショック。物流も大幅に制限され、アメリカへは10月まで何も送れない状態が続いた。そこでティアスさんが決断したのが、実店舗を開くこと。クラウドファンディングで資金を募り、見事8月にその夢は叶った。だが、オンライン化が進むなか、その展開は時代に逆行するようにも見える。

「国内市場も開拓しなければと思っていた矢先に、その可能性が私の前にふっと現れたのです。これは流れに乗ろうと思いました。私の人生は、その時に必要なものが良いタイミングで現れてくれる、といったことがあります」

次のステップが目の前に現れたら、見逃さないように。日々を意識して生きる訓練は、こんなところにも繋がっているのかもしれない。

オンライン時代に必要な肉体と精神

オンラインショップの運営にあたり、コミュニケーションツールや決済プラットフォームを駆使してきたティアスさんだが、2年前にオンラインの在り方を考えさせられた出来事があった。MR(VR・ARの上位版のようなもので、仮想世界の情報を現実世界の重ね合わせて体験できる)によって架空の茶会を行う試みで、来場者はホロレンズというMRデバイスを身につけ、ヴァーチャル世界で茶会を体験できる。ティアスさんはそこでお茶を振る舞った。

 

「友人の誘いで挑戦してみました。茶道や茶室がいつでもどこでも体験でき、資料として未来に残すこともでき、大変面白いと感じました。ですが、お茶ではありません」と断言する。その理由はこうだ。

 

「狭い茶室に集まり、場の空気を一緒に吸うのがお茶会です。そこでは会話の代わりに、仕草や行動でメッセージを伝え読み取るというコミュニケーションが主体。それをそのままオンラインで行ったら、参加者はきっと物足りなさを感じるでしょう。そこを知識や情報で補っていくと、本来のお茶会からは離れていきます」

 

しかし、彼が見据えるのはオンライン体験の先だ。興味をもったら、現実の体験へ。そこを繋げられるよう、オンラインの役割やベストな付き合い方を見出すのが目下の目標と話す。

 

「オンラインが加速する今、現実を見失わないように、肉体的な感覚とその基盤になる強い精神が今後ますます必要になるでしょう。それを育む方法のひとつに茶道があります。茶会の準備からお点前まで、目の前のものに集中して取り掛かる。それら立体的な行動を通じて、強い精神が育まれるはずです」

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取材:池尾優

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