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オンラインと今。

ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

良いサービスの源は「五感で現場を体験すること」現場向けノーコードツール「カミナシ」

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ペーパーレス、ハンコ廃止などの効率化が叫ばれるなか、現場にはまだまだアナログ領域が残ると言われる。そんな現場に特化したサービスを提供しているのが「カミナシ」だ。その社名“紙無し”に込められているように、デジタルを活用した現場向けのソリューションを提供している。「ロイヤルホスト」や「てんや」などの外食事業を展開するロイヤルホールディングスの350店舗に導入されている他、製造、ホテル、物流など現在の導入先は16業界に及ぶ。最近では、全国360拠点をもつ「ホテルルートイン」の全店導入も進んでいるという。業界を超え、これほどの広がりを見せているのはどうしてか。株式会社カミナシの代表取締役CEOの諸岡裕人氏に話を伺った。

目指すのは、効率化の一歩先

カミナシの製品コンセプトは「ノーコードで現場管理アプリを作る」だ。まずはノーコードツールの説明からしておきたい。

 

プログラミングの知識やスキルがなくても開発できるWeb上のツールのことで、ユーザーは現場のタスクや作業フローなどに合わせて業務アプリを作成できる。ITエンジニア不足が叫ばれる中、非IT人材でもデジタル化を推進できるとして、近年も大きな注目を集めているキーワードだ。主なユーザーはオフィス以外の現場で働いている人で、カミナシではノンデスクワーカーと呼んでいる。

現場では、紙での出力や手作業での書き込み、エクセルへの転記、無数の目視確認、またハンコのやりとりなどがまだまだ一般的。現在の日本の就業人口6,700万人のうち、3,900万人がノンデスクワーカーという数字がある。実に半分以上が、この令和の時代においても、ITの恩恵を受けていない。カミナシはそうしたアナログなプロセスを効率化するサービスだが、大切なのは「ただ効率化することではない」と諸岡氏は話す。

 

「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ、と僕らは言っていて。効率化が図れたことで、より現場の仕事がエキサイティングになる。具体的には、自分のアイデアや発想がすぐに具現化できて、その結果が手に取るようにわかるようになる世界。僕たちが作りたいのはそんな現場です」

例えば、生産性を上げるためにオペレーションを変える提案をしようと思っても、具現化してオペレーションに反映されるのには1週間〜1ヶ月かかることもある。24時間体制でシフト制の工場では全員に周知するのにまず数日かかり、その後は紙のマニュアルを出力して配布。現場にベタ付きになり浸透具合を確認。その結果を判断するにはストップウォッチなどで数値を測る必要があり、さらに時間と労力がかかる。

 

かたやIT企業では、コミュニケーションツールで新たなマニュアルとともに一斉通知し、クラウドで管理すれば、オペレーションは翌日から変更できる。データや分析機能を使えば、結果も一目瞭然だ。

 

「自分のアイデアがチームで実践され、例えば翌日の朝に具体的にどれくらい改善されたことが分かったらチーム全員が嬉しいですよね。定例会が“褒める会”に変わるんです。自分がチームや会社に貢献しているという達成感や喜びが、次のモチベーションへと変わっていきます」

自分が継ぐ会社に嫌気が差した

諸岡氏が現場を重視するのは、過去にこんな体験をしたからだという。

 

大学卒業後に人材派遣会社での勤務を経て、父親が展開する航空関連のアウトソーシング事業の会社に2年間勤めた。大量の人材を雇い、飛行機の運航に必要な、様々な現場の業務をさばいていく会社だ。とにかくマンパワーが要るので毎年新卒を100人採るが、3年後には9割が辞めるのが通例だった。

 

「転職口コミサイトで検索すると『やりがいがない』とか『こんな面白くない仕事をするために僕は大学を卒業したわけじゃない、と思って辞めた』といったコメントが多数あって。正直、自分が将来継ぐ会社がそんなことを言われているのに傷つきましたね」

 

その後、後継ぎ修行として配属された現場でその実態を知ることになる。任されたのは、機内食を製造する食品工場だった。

 

「食器洗浄機の担当になったのですが、その機械の調子が悪かった。責任者の方に『機械が止まったら、ここに応急処置的に割り箸を差してあるんだけど、割り箸をこの角度にすると動きやすい。ここで責任者としてやっていくなら、この角度がめちゃくちゃ大事なんだ』と言われて…。若い社員がこんな日々を過ごしているんだとしたら、そりゃあ辞めるなと腑に落ちました」

 

自分が継ぐならこんな会社は嫌だ…。そんな想いから、若い世代向けに部活動制度を作ったり「未来を考える若手会」を立ち上げたりもしたが、結果、離職率も優秀な人から辞めていくことも変わらなかった。

会議室に課題はない

学生の頃から起業するのを決めていた30代前半に差し掛かった頃、突如光が当たったのが、この時に得た現場経験だ。カミナシの事業構想が動き出した瞬間だ。

 

「事業構想を100個ほど考えて投資家にプレゼンしましたが、どれもうまくいかなくて。最後に、『僕が経験してきた現場の働き方は…』という話をしたら、投資家の方から意外な反応が返ってきて。『現場ってそんなことが起きてるんですか? もっと聞かせてください!』と」

 

これまで価値がないと思っていた現場の経験は、IT業界などのデスクワーカーからすると衝撃的な世界だった。実際、有名なベンチャーキャピタルのなかには「現場の解像度が全て」とか「現場とIT業界どちらも知っている、掛け算の人があまりにも少ない」などと提唱する人もいる。現場=アナログのイメージをもつのは簡単だが、それだけでは事業は作れない。どんな流れでどんな作業があり、何が大変で、どんな気持ちで辞めていくのか。そうした現場の解像度があるかないかで「人を巻き込める力が大きく変わる」と諸岡氏は指摘。

 

「今は便利なツールも多いので、特に我々のようなIT企業だと、チャットやZOOMで話を聞いてわかった気分になりやすい。でも、会議室に課題はないと思っていて。現場に行って五感で体験しないと現場の人たちの本当の苦しみはわからないし、自分事にもできません。大きな機械音で声が届かないとか、外国語が飛び交っているとか、湿気がすごいとか、手袋2枚重ねでタブレットが使いにくいとか…そうした細部を知らずに、本当に良いサービスは提案できません」

“現場のタブレット”は空気のような存在になる

最近嬉しいことがあった、と諸岡氏は教えてくれた。カミナシを父親の会社も使い始めたという。自分が中にいた時は変えられなかった世界が、外に飛び出したことでようやく今、そこに向き合える状態になった。それだけではない。この1年は、社会が変わっていく実感を得た1年だったと言う。カミナシを導入する企業のなかでは、カミナシを導入した事例やそこに貢献した社員が社内で表彰される、といったことが相次いだ。

 

「デジタルで現場を変えていくことに対して、会社や社会が評価をし始めている、というのは肌感としてすごくあります」

コロナ禍では多くの現場が閉鎖されるなど、苦戦は今も続いている。業績は落ち、人員を減らさざるを得ない一方で、業務量自体は変わらないことも多い。そこをデジタルでどう埋めていくか、というチャレンジは、この先しばらく続くだろう。カミナシを創業した2016年には、現場向けのサービスは少なく、自社で作る他なかった。それがここ2年ほどで、現場DXを標榜するサービスは急増している。

「今は現場でタブレットを使うのはまだ珍しく、それでメディアに取り上げられたりもするレベルです。それが10年後には、空気のように当たり前になっているでしょうね」

諸岡 裕人

hiroto morooka

株式会社カミナシ 代表取締役CEO

2009年慶応大学経済学部卒業。リクルートスタッフィングで営業職を経験後、家業において航空会社の予約センター立ち上げや機内食工場、ホテル客室清掃などブルーカラーの現場業務に従事。その原体験から、2016年12月に株式会社カミナシを創業。ノンデスクワーカーの業務を効率化する現場改善プラットフォーム「カミナシ」を開発。

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取材:池尾優

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