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オンラインと今。

ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

「ポジティブな背徳感で、わたしを解放」の「昼ビ」。広告宣伝費0円でどこまで認知できるかの試み

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「オンラインを活用したプロモーション」。今の時代に欠かせないキーワードだ。プロダクトを開発して商売する人からすると、避けては通れないものであろう。

 

しかし、今回紹介するクラフトノンアルコールビールブランドの「昼ビ」は、オンラインのプロモーションを「売り上げを伸ばす手段」とは捉えていない。オンラインは、あくまで自分たちが楽しみながら、ステークホルダーとつながり続けていくための、コミュニケーションの場としている。

 

「昼ビ」の発売までの経緯やプロモーションへの想いを振り返る中で見えてきた、オンラインが果たす役割とは。開発・販売を手がけるthe TandemのCEOの松永ひろの氏と、CMOの銭谷侑氏に聞いた。

松永 ひろの

the Tandem合同会社 Art Director / Illustrator / CEO

電通でアートディレクターとして働いたのち、独立。自らも会社を経営している経験を活かし、ビジネス視点でのデザインを行なっている。またイラストレーターとしても活動中。

銭谷 侑

the Tandem合同会社 Copywriter / CMO

電通でコピーライターとして働いたのち、独立。現在は、freeeのブランドマネージャーも務め、世界中のスモールビジネスを応援する活動を行っている。

時間も立場も問わず「解放感を味わってほしい」

「昼ビ」を手に取り、真っ先に飛び込んでくるのは、ビビッドな配色が施されたデザインだ。口に含むと爽やかな甘みが鼻に抜け、飲み干すとほのかな苦味が広がっていく。思わずノンアルコールであることを忘れてしまい、「日中からビールを嗜んでいる」というかすかな背徳感が心の中に芽生える。

「昼ビ」は、「ポジティブな背徳感で、わたしを解放」をコンセプトに据えた、クラフトノンアルコールビールブランドだ。「原材料」「味」「パッケージも含めた『体験』」の3つにこだわることを掲げ、本格的なビールと同じく麦芽を100%使用、人工甘味料などの食品添加物は一切加えていない。この商品は、the TandemのアートディレクターでCEOの松永氏のある思いが起点となって誕生した。

 

松永「『昼ビ』は、アルコールが苦手な人や、妊娠中の人、病気の治療中などでアルコールが飲めない人にも、ビールを飲んだような解放感を味わってほしいという想いから生まれました。私自身、アルコールが苦手だったのですが、飲み会などでビールを飲む人たちの姿を見て『羨ましいな』と感じていたんです。みんな、ビールを飲んだ瞬間に表情がパッと明るくなっていく。もしかすると、ビールには『心を解放する力』があるのかもしれないと感じました。そのパワーを、どんな状況の人にも届けて、楽しい時間を過ごすきっかけにしていきたい。そう考えて、開発を始めました」

「昼ビ」の根底にある「人生を良くしたい」という想い

「ビールの持つ力」に着目して、「昼ビ」を開発した背景には、the Tandemが掲げるテーマが関係する。同社は、松永氏とコピーライターでCMOの銭谷氏が2人で運営するデザインファームだ。「人生を良くする」をテーマに、ことばとデザインの力を生かしてクライアントの商品やサービス、ブランド開発に取り組んできた。

「昼ビ」を開発した、銭谷氏(左)と松永氏(右)

 

2人は大手広告代理店出身の夫婦で、もともとは大企業が抱えるプロモーション上の課題を洗い出し、解決の手段としてことばとデザインの力を駆使してきた。しかし、少しずつ自らの仕事に対して、疑問を感じるようになっていった。

 

銭谷「顧客の課題をヒアリングして、解決策を考える仕事は非常にやりがいがありました。しかし、企業が抱える課題の解決ではなく、人々がよりよい人生を生きるために、自分の力を使ってみたいと考えるようになったんです。松永と結婚して自分のライフステージが変わったこと、長時間労働が問題視されて社会的にも働き方改革の必要性が叫ばれ始めたことも重なって、自分の人生について深く考える時間が増えたからでしょうね。松永に話してみたところ、とても共感してくれて。2人で会社をやめて独立しました」

 

「昼ビ」もまさに、ノンアルコールビールという商品を通して、消費者の人生を良くしたいという想いから生まれた商品だ。手に取った人の人生を良い方向に変えていくために、どんな商品を提供するべきか。2人は、来る日も来る日もディスカッションを重ねた。そこで出た答えが、「ビールを飲んだ時に得られる“背徳感”を、体験価値として届けること」「自分の大切な人に堂々と勧められるように、安心安全な商品をつくること」だった。

 

銭谷「2人で議論を重ねる中で、『ビールの価値って一体何だろう?』という話になりました。それは背徳感なのではないか、という答えが出たんです。昼に飲むビールって、なんとも言えない快感があって、いつもに増して美味しく感じませんか? 本来は夜に飲むものを昼に味わうという、ちょっとした冒険心といいますか(笑)。そういったワクワク感を届けられればと思いました。ビールの価値を『背徳感を楽しむものだ』と定義した時に、ノンアルコールビールは、『アルコールの代用品』ではなく、ポジティブに背徳感を楽しめるものかもしれない。そう考えて、『ポジティブな背徳感で、わたしを解放』をコンセプトに据え、昼から堂々と背徳感を楽しめるという思いを込めて『昼ビ』というネーミングにしました」

 

松永「そのうえで、『どうすればポジティブな気持ちで背徳感を味わってもらえるのか』は、2人で考え抜きました。たとえ、味や体験にこだわっても、安心して味わってもらえなければ、『ポジティブ』とは言えないと気づいたんです。そこで、原材料にはこだわり、添加物を一切使わないことにしました」

2人が試飲した海外のクラフトノンアルコールビール

 

2人はアメリカやヨーロッパなど、海外のノンアルコールビールを試飲して周り、アイデアを練った。こうしてリリースされたのが「昼ビ」だったのだ。

オンラインを駆使して、小さな実験を繰り返す

2020年夏のリリース以来、松永氏と銭谷氏は「広告宣伝費を1円もかけずに、どこまで『昼ビ』を広げられるか」を掲げ、「昼ビ」のプロモーションを重ねていった。

 

銭谷「僕たちは少人数のチームで事業を始めているので、あえて常識の逆をいく挑戦をしてみようと思ったんです。強いコンセプトと、それを体験した消費者の口コミだけで、どこまで広げることができるのか。実験してみようと考えたのです」

 

その際に重要な役割を果たすのが、オンラインだった。松永氏と銭谷氏は、Instagramを活用し、「昼ビ」のコンセプトを体現する投稿を続けている。シズル感あふれる写真はもちろん、ユニークなキャッチコピーが並んでいるのが特徴だ。「写真にこだわらず、自分たちのコンセプトがどうすれば届くのか」という実験のひとつだという。

2人は、体験を広めるための仲間作りのツールとしても、オンラインを活用する。2021年1月から2月にかけては、「#昼ビールで飲食店を応援」キャンペーンを開催。Instagramで、ハッシュタグ「#昼ビールで飲食店を応援」をつけ、応援したい飲食店の写真を投稿すると、投稿者と飲食店の両者に抽選で「昼ビ」がプレゼントされるという試みだ。

 

松永「消費者と飲食店のあいだに、『昼ビ』を起点にした応援の輪を生み出していきたいと考えて、キャンペーンを始めました。『昼ビ』を発売した後、キッチンカーや飲食店からお問い合わせをいただくことが多かったんですね。実際にプレゼントをすると、とても喜んでもらえました。コロナで売り上げが落ち込む中で、『昼ビ』と一緒に提供することで、少しでも売り上げを上げられますし、消費者の方もとても興味を示してくださるそうなんです。この声を聞いて、『昼ビ』、飲食店、消費者の皆さんのあいだにポジティブな連鎖が生まれていることに気づいたんです。緊急事態宣言が出され、飲食業がさらなる打撃を受ける中で、『昼ビ』が何か力になれるかもしれないと、キャンペーンを始めました」

微力でもいいから、人の人生の力になりたい。2人は、そんな思いで小さな実験を繰り返している。そこで実感したのは、ふとしたアイデアをすぐに実行に移し、反応が見えるというオンラインの魅力だった。

松永「最近だと、『夜だけど、昼ビを飲んでいます』『リモートワークのお供に、昼ビ』などと投稿してくださる方も少しずつ増えています。私たちの届けたメッセージに対してのレスポンスが見えるのが非常に嬉しいですし、価値を感じてくださっているのだなと」

 

銭谷「まだまだ僕たちも、どんな人に自分たちの価値提案が届くのか、どんな人が共感してくれるのかを探っている段階です。そんな僕たちにとって、『オンライン』は今までやったことのない実験を仕掛けられる実験場のような存在。この実験を繰り返す中で、どんなふうに『昼ビ』の価値が変わっていくのか、非常に楽しみですね」

オンラインは、Giveの連鎖を可視化し、貯めていく場所

マーケティングやブランディングと聞くと、いかにニーズを発掘し、顧客に対して戦略的にアプローチをしていくイメージを抱く。だが、松永氏と銭谷氏は「昼ビ」の急激な認知の拡大や、大幅な売り上げのアップは求めていない。彼らにとってのプロモーションは、あくまで「昼ビ」を通して得られる体験の価値を届けていくことなのだ。

銭谷「僕も広告代理店にいた時は、いかにして消費者のニーズを発掘するのかに目が向いていました。しかし今は、まずは自分たちが楽しみながら、『昼ビ』を取り巻く人たちにどんなGive(価値提供)ができるのか、それによってどんな連鎖が生まれるのかにシンプルに向き合ったほうが面白いのではないかと考えています。僕はこれを、“Giveの連鎖”だと感じていて。その連鎖を作っていくことで、消費者の皆さんの人生をよくするような、温かな変化が生まれていくのではないかと思うんです」

 

商品を届ける側と、受け取る側。双方の中に生まれるGiveの連鎖を太く、確かなものにしていくうえで、オンラインはどのような役割を果たすのだろうか。

 

松永「オンラインは、私たちの発信の軌跡やユーザーさんの声といった、『資産を貯める場所』だと感じています。顔が見えず、なかなか見られないユーザーさんの反応を知れるのはオンラインの力だと思いますし、その声が資産として蓄積されるのは、『昼ビ』がエンパワーメントされていく感覚があって嬉しいですね。今後は、そうしたユーザーさんの声もリポストしていきたいですし、自分たちの届ける価値がどのように広がっていくのかを具に見つめていきたいと思います」

 

銭谷「オンラインはまさに、『Giveの連鎖』が可視化され、貯まっていく場所だと考えています。僕たちはまだまだ小さなブランドですけれど、そういったポジティブな投稿が貯まっていくと、僕たちの思いや信頼の証にもなっていくと思うんです。ギブの連鎖を可視化して、それを次につなげていくために、オンラインはとてもいいツール、いい場所だと感じています」

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取材:藤原梨香

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