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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

ロボット工学者・石黒浩氏「病気などはアバターへの方が話しやすい」変わるアバター時代のビジネス

ゲームやバーチャルショッピング、教育の現場など、さまざまな領域で加速的に拡大を見せる「メタバース」の世界。2023年3月には、メタバース空間「Decentraland(ディセントラランド)」で、史上初のメタバースファッションウィークが開催されたことでも話題になった。

 

そんなメタバースの世界に飛び込む上で欠かせないキャラクター設定「アバター」は、ゆくゆくはメタバースの中の世界を越えて、実世界のさまざまな場所に進出し、人々の働き方や生き方を大きく変え、ひいては社会を変えていくと予想されている。

 

今回は「アバターが実世界にとってどれだけ必要か」について書かれた『アバターと共生する未来社会』の著者・石黒浩氏に取材。タレントのマツコ・デラックス氏やデジタル大臣・河野太郎氏の例でお馴染みの自分そっくりなロボット「ジェミノイド」を開発したことでも知られる石黒氏に、これからのアバターのあり方について話を聞いた。

メタバース以上に未来を切り拓くのは「アバター」

まず、もう一度おさらいしておきたいのは「アバターとは何か」ということ。アバターというと現実世界とは一線を画すイメージがあるが、「アバターは仮想現実にとどまらない」と、石黒氏は提唱する。

 

「アバターがメタバース上だけのものという固定観念は、捨てるべきです。アバターの定義は、スマホやタブレット上の『CGアバター』の場合と、物理的に実世界に存在する『遠隔操作型のロボット』の場合があります」(石黒氏、以下同)

 

アバターは、肉体が乖離している状態で操作者がさまざまな社会活動を行うことができる、いわば「操作者の分身」。CGアバターは、ゲームやSNSの世界などインターネットの空間での活動が主だってくるが、じつはメタバースに限らず、実世界でも活動の可能性が多いにある、と石黒氏。

 

 

「おそらく多くの人が注目しているのは、アバターよりもメタバースのほうだと思います。メタバース上で動きまわるアバターは、添え物程度であると思う人も多いかもしれませんが、実は本当に重要なのはアバターです。アバターは間違いなく人々の働き方、生き方を大きく変え、社会の姿を変えるでしょう」

 

アバターの状態で社会活動を営むのは、現状ではハードルが高いのでは? という疑問も残る。だが、考えてみてほしい。少し前なら対面で仕事することが当たり前だった領域も、コロナ禍を経て、リモートワークが随分と一般化した。アバターもそれと同様であると、石原氏は言う。

 

「オンラインミーティングでは、顔色を少しきれいに見せたりする人も多いかと思います。アバターもそれと同じ感覚で、今後使う人が増えていくでしょうね。自分のアバターをいろいろなシチュエーションで設定できることは、仕事や社会活動の間口を広げます。TPOに合わせて洋服を変えたり、人前に出るときは化粧をしたり。そんな感覚で、アバターを当たり前に使う未来がくると思っています」

 

場面によって最適なアバターの姿形や声、喋り方を選べるというのは確かに便利そう。それによって選択肢が増え、より働きやすい環境が実現するというのだ。

ビジネス利用から、個人利用へ。アバターの可能性

「外見を変えられるというアドバンテージがアバターにはありますが、大切なのは『アバターを使って経済活動を営む』ことです。それが可能になれば、高齢者や障がいのある人、病気を抱えている人などが、より生き易い社会になります。そういう世の中を目指しているのが私の会社であり、プロジェクトです」

 

石黒氏が代表を務めるAVITA(アビータ)株式会社では、アバター技術によって実世界の仮想化と多重化を行い人々を解放する新たな世界を創る、企業活動の中にアバターを生かすさまざまなプロジェクトを進行する。

例えば、保険選びサイト「保険市場」では、オンライン上での問い合わせにCGアバターが対応する窓口を設置。利用者の要望に応じて、アバターがコンサルティングを提供したり、採用イベント(学生向けの合同説明会など)でアバターが企業説明などを担当したりする。

問い合わせにアバターが対応した場合は、電話やチャットよりも保険相談アポイントに至る割合が高いという結果が出ているという。「病気のことなどは特に人間に話すよりアバターに話す方が話しやすい」「アバターと話すのは初めてだが、とても和やかで話しやすかった」など、利用者からは前向きな声が上がった。

 

こういった企業への導入事例は続々と増えているが、個人単位でアバターを普通に使う例も今後増えてくるのは間違いないという。身ひとつだから難しかったことも、その制限が外れれば当然可能性は広がり、生き方の選択肢が増える。コロナ禍でリモートワークが一気に普及したように、「アバターで働くと効率もいい」という考えが常識である世界がくるべきだ、と石黒氏は話す。

 

「自分の肉体をアバターに置き換えるわけですが、頭脳の部分も操作者以上に発揮できるケースもあります。それが広まれば、アバター利用はどんどん浸透していくでしょうね。特に、人同士のコミュニケーションの上で成り立つサービスは、どんどんアバターに置き換わっていくでしょう。生身の人間だと遠慮してしまう内容も、アバターであれば話しやすい。プライバシーに関わることがわかったほうが、より親切なサービスを提供することもできますから」


これは、友達には言いづらい悩みだが知らない人になら言いやすい、という感覚と似ているのかもしれない。相談する相手が生身の人間ではなくアバターなら、より深い部分まで相談できる。さらに、自分がアバターになってしまえば自分の素性は明かされないわけだから、どんどん深部まで相談ができ、ダイレクトな悩みや課題解決に繋がりやすくなることは、大いにありそうだ。

アバターを活用できる生活は、ひとを幸せにする

アバター利用は、場面によって「CGアバター」なのか「遠隔操作型なロボット」なのかを使い分けることだってできる。例えば、車いす生活であっても旅行先にロボットを設置し、それを自宅から操作することで、まるで自分が旅行先の街並みを歩いているかのような体験をすることだってできるのだ。


「身体不自由な人でも、したいと思うことを体験できるのがアバターの可能性です。技術は人間を進化させ、差別からも解放します。アバターなら、性別の問題も関係ないし、障がいがあっても働ける。本当のダイバーシティインクルージョンを実現できる社会に、より近づきます。肉体があることで起こる差別も多いです。技術の進化でアバターを使って自由な姿形になれたら、差別対象となる見た目は関係なくなりますから」

 

見た目だけでなく、頭脳もAIの力で強化することができる。そうやって誰もがなりたい自分になって自由に働ける社会ができれば、もっとみんなが元気になるし、自由に働けるようになる。人口減少が起こっても、社会の活力を維持できるようになるというのだ。

 

「人間として我々はテクノロジーと融合しながらずっと生きてきました。これからももっと融合が進んで生産性が向上するし、いろんな人がもっと自由に活動できるようになっていくでしょう。現に、昔に比べて差別の問題は激減しています。そこにアバターの介入は必須です」

 

これから石黒氏が取り組みたいプロジェクトを聞いてみた。

 

「本当の意味で、アバターで世の中を変えていきたい。ここは日本が得意としている領域でもあるので、どんどん先陣を切っていけたら。日本人は差別の概念が昔からなく、万物に魂が宿るという考え方をしてきている民族です。島国であるからこその文化ですが、地球も宇宙の果ての島国みたいなもの。長く歴史を積み重ねれば、だんだんと世界がそうなっていくだろうと思います」

「アバター」のココが危険。落とし穴はない?

アバターが今以上に利活用できるようになったら、アバターばかりに依存してしまう弊害があったりするのだろうか。石黒氏の意見を聞いてみた。


「依存とは、常に何にでもつきまとうものです。これまでの文明の発展の中でも、自動車やスマホと同じです。アバターは人間に近い存在なので、もしかしたら、スマホに依存しすぎるよりいいかもしれない。例えばSNSは炎上しますが、アバターとの会話で炎上することは、はるかに少ないんですよ。背後に人の存在感を感じるからでしょうね。テキストベースのSNSよりも、アバター利用はより、健全なツールになるのかなと思います」



毎日服を着替えるように、「この日はこのアバターで」と毎朝自分のアバターをチョイスする未来は、もしかしたらすぐそこなのかもしれない。それが当たり前になった世界では不可能が可能になり、より選択肢も増えるという期待ができる。

 

石黒浩

Hiroshi Ishiguro

ロボット工学者

1963年、滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授(大阪大学栄誉教授)、ATR石黒浩特別研究所・客員所長(ATRフェロー)。知能ロボットやアバターの研究開発に従事。人間酷似型ロボット「アンドロイド」研究の第一人者。2007(平成19)年に英Synectics社の「世界の100人の生きている天才」で日本人最高位の26位に選ばれる。2011年に大阪文化賞受賞。2025年に開催される大阪・関西万博の中心となるテーマ事業であるシグネチャーパビリオン「いのちの未来」をプロデュース。『アバターと共生する未来社会』など著書多数。

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