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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

デザイン活動家・ナガオカケンメイ氏「デジタルのものも、手触り・匂いで愛せる」

流行に左右されない普遍性を持ち、長く使い続けられ長く愛されている「ロングライフデザイン」の第一人者である、デザイン活動家・D&DEPARTMENT創設者のナガオカケンメイ氏にインタビュー。

                    

デジタル社会のいま、情報は右から左にすぐ流れ、流行り廃りが短いスパンで頻繁に入れ替わる。長く息づくロングライフデザインとは、真逆の存在だ。ナガオカ氏は、そんな現在のデジタル化をどのように読んでいるのだろうか。

 

この度ナガオカ氏が上梓した『ナガオカケンメイの眼』は、2000年にD&DEPARTMENTプロジェクトを立ち上げる中で「ロングライフデザイン」と23年間向き合ってきたナガオカ氏が、2012年10月から社員に向けて書き始めたメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」の中から 約107話を選りすぐったもの。同書で伝えたかったこと、デジタルとロングライフデザインの共存について話を聞いた。

情報が流れていく時代こそ、「普遍的なこと」に考えを馳せる

『ナガオカケンメイの眼』で取り上げられているトピックは、普遍的だ。読み進めていくと、いかにナガオカ氏が日々流れていく出来事の一端を掴んで、そこに芽生えた感情に丁寧に思いを馳せているかが見てとれる。ユニークな視点から語られる、普遍的なこと。スマホの中に流れてくる情報を次へ次へとスワイプアップするのでは得られない、気づきを与えてくれる。

 

「社員が増えスタッフ一人ひとりとの交流が難しくなってきたことをきっかけに、社内向けに書いたメルマガが始まり。社員向けに『こういうことって大事じゃない?』みたいなことを書いています。なので、常にお店が舞台になっていて。書きながらなんとなく顔を思い浮かべているスタッフがいるわけです。彼らと一緒にD&DEPARTMENTというお店をやりながら具体的に起こったことの中で感じたことを、彼らを通じて、社会に向けて書いています」(ナガオカ氏、以下同)

集録されているテーマには、掃除にまつわるものも多い。ナガオカ氏は、自らの視点を研ぎ澄ませる一つの手段としても、「掃除」をするとか。

 

「掃除は、心地いいんです。僕は朝起きてからすることが二つあって、それが風呂掃除とベッドメイキング。帰ってきたときに、キレイな状態になっているのがいいんです。だから僕は、ホテルが好きなのかもしれない。面倒くさいとかは考えずに、目の前にあることとして、とにかくやるんですね」

 

目の前が整頓されている状態だと雑念がなくなりやすく、自分の考えと真っ直ぐに向き合えるという。その意味で掃除は「手前のものをなるべくなくす作業」。そうして研ぎ澄まされた視点で綴られた数々のエピソードの中で、思い入れの深いものを聞いてみた。

 

「いい会社と創業者とは、についての話です。会社をやっていると、いろんな社員が辞めていく。会社の根っこに繋がってないから、入っては辞めてを繰り返すのでは、ということが書いてあるんですけど」

 

何においても「根っこに繋がっていること」が大切だと、ナガオカ氏。例えば、新商品が出るとそれがどれほどいいものなのかが、熱い思いで語られる。長く販売を続けていくと、最初の熱量はおのずと冷めていく。そんな中でも、それを愛している人がその商品の良さを定期的に伝え続ける。そんな商品が「ロングライフデザイン」になっていく。販売が終了しても、終わり方がいいと復刻される。人々の根っこに繋がっているものこそが、まさにロングライフデザインなのかもしれない。

「時間軸」という基準で捉えるロングライフデザインとデジタル

私たちの生活において不可欠になったデジタルの世界は実態が目に見えづらく、一見ロングライフデザインとは対極にあるようにも思われる。ナガオカ氏は、現在のデジタルの浸透をどのような視点で観察しているのだろう。

 

「ロングライフデザインって時間軸なので、時間軸であることに関しては、オンラインもオフラインも変わらないと思うんですよね。よく『オンラインとか、興味ないんですよね?』とか言われたりするんですけど、めちゃくちゃ興味ありますよ。それはなぜかというと、オンラインがあるからオフラインがあるし、ウェブストアがあるから路面店があるし。この共存の仕方がリアルじゃないですか」

 

すぐにアクセスできるデジタルと、長い間在り続けるロングライフデザインとは対極の位置にあるのではなく、隣り合わせにある。どちらかだけでは、社会的な成長や時代の進化が止まってしまう、とナガオカ氏。

「みんな『1日24時間』を持って生活をする中で、ここは短縮できるとか、ここは長く時間をかけようとかって、やってるはずなんですよ。そういう意味では、本屋さんに行かなくてもECサイトで狙った本を買えるっていうのは、すばらしいことです。だけど、本屋さんに行って全く意識もしなかった本と出会うっていうことも、とても大切。無駄なことのように見えて、リアルだからこそ叶う人生の中での出会いのような。そこは、両方がセットになってないと駄目かなって思ってます。これ、ずっと思ってました」

 

「この本が読みたい」と思ったときに、電子書籍サービスで読むのか、本を手に取るのか。入ってくる情報は同じでも、触れるか触れないかの差は大きい気もするが……。

 

「本もデジタルで読める時代ですよね。情報としてはさっさと読めばいいんですけど、でも僕は本棚におさめたいし、物体としては持っていたい。世代なんですかね。9割がた、僕は物体派。電子書籍サービスで読めるとしても、本を選びますね。ただ、もう今すぐ読みたいっていうときには、電子書籍サービスを選べばいいと思うし。これからの未来では、人々のそういうニーズが、どんどん二極化していくんじゃないかな。『今すぐ必要』なものは、明日どころか一時間後に届く。そのスパンが、だんだんだんだん、短くなる。今すぐ必要なものと、そうじゃないものが両極端になってきて、これは10年待てるけど、これは1秒も待てないみたいな。僕は今はどちらかというと物体派で、物にしないと気が済まないので、『d design travel』も紙の本の状態にしたりしていますけど。例えば、明日急に北海道に行かないといけないとなったときに、『d design travel』の 北海道号がぱっとネット上で見られたら、それはそれでいいじゃない、と思います」

便利、欲を満たす、狙い撃ちできるのがオンライン。より自分の真髄に深い感銘を運んでくれるのが、五感で感じられるリアルな世界。どちらがいい悪いではなく、これからの時代に生きていく私たちは、それらを使い分けていく必要がある。

 

「デジタルで短縮できた時間を使って、自分の生活や人生を豊かにすることができます。デジタルかロングライフデザイン、どちらかだけではなく、両方バランスを持つ。そういう時間の概念を持つという上で、ロングライフデザインとオンラインは、紐づいていると思います。自分としてはそのバランスを取りながら、多分リアルが6でデジタルが4ぐらいだと思うんですけど、自分が生きた年代にあったものを大切に受け継いでいきたいです」

デジタルのものに「手触り」や「匂い」がついたら愛せるかも

これから創出するサービスやプロジェクトにおいても、デジタルを視野に入れて考えていきたいと、ナガオカ氏。「これはここに行かないと買えない」といった価値付けこそ大切だという意見もあるが、「買う」という行為においてオンラインでどこからでもアクセスできることは、出会いの間口が広くなり、さまざまな機会を創出することに繋がる。

 

「僕は、路面店のあり方がすごく好きなんですね。一番面倒くさい、人と人とが対面して何かすることによって、どばっといろんなものが可能性が広がっていくのを体験しているので。ただ、そのきっかけはデジタルでもいいと思うんですよ。D&DEPARTMENTのオンラインストアが始まった当初は、7品目ぐらいが上がって、1個1個に僕がコメントをつけて、これが欲しい人は電話してね、みたいなやり方でした。会わなくても電話で話したら、何かほら、いろいろ伝わるものがあるじゃないですか」

 

今でこそ時代の流れに合わせてオンラインショップも運営しているが、「手に取る人がどう受け取り、どう感じるか」という想像力を大切にしながら、商品を届けたいという思いは常にあるという。

 

「これから先、リアルのお店はどんどん小さく小さくなっていくでしょうね。今すでに、そういった流れです。一方で、オンラインストア化もどんどん進んでいく。リアルで一点しか扱わないか、オンラインで100億点扱うか。そういう世界になっていくのではないでしょうか。リアル店舗で提供できるものは、実はもう物体じゃなくて、体験にシフトしていくのかもしれません。その場所にいるからできることに、みんなお金を払う。そんな世界も楽しみですけどね」

オンラインで100億点扱っているものを選んで買うか、対面で一点しか扱っていないものを買うか。同じモノを買うにしても、そこに刻まれるストーリーは違うものになりそうだ。とはいえ、手に取ればそのモノの良さを味わうことができる。オンラインがあることによって、「手の入れかた」を選択することができるのは、いい時代。

 

「もの=物体として楽しめるという意味ではね。ただ、物体がなくなって完全なバーチャルになってしまうと、また話は変わりますよね。もしそのバーチャルの中にある『もの』も、手触りがあったり、匂いがあったりとなったら、ちょっと考えが変わるかもしれないですけど。オンラインショップとはまた嗜好が違う、バーチャルの中で歩いて、触って、買う、っていうのなら楽しそうですよね」

 

1日24時間という時間軸において、オンラインとオフラインが隣り合わせにある今の世界。そういったリアルにおいて普遍的に息づくものが、ロングライフデザインとして長く人々に愛されるものになっていくのだろう。

ナガオカケンメイ

Kenmei Nagaoka

デザイン活動家・D&DEPARTMENT創設者

その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」、常に47都道府県をテーマとする日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」、その土地らしさを持つ場所を2ヶ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動を展開。2013毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」 配信中。

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