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ENILNO いろんなオンラインの向こう側

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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

SNS使い分けで「和菓子店をV字回復」元ギャル女将「フォロワー数は重要ではない」

以前よりも冠婚葬祭や手土産の機会が減り、多くの和菓子店が経営に頭を悩ませている。そんな和菓子店のひとつである「五穀祭菓 をかの」をV字回復させた「元ギャル女将」 がいる。Z世代の彼女はSNSを筆頭に各種メディアの使い分けを意識しながら、和菓子の魅力を発信し続けている。若き経営者、榊萌美氏にV字回復のストーリーとマーケティング術を伺った。

「元ギャル女将」――埼玉県桶川市で136年続く和菓子屋「五穀祭菓 をかの」の若き女将である榊萌美氏について検索すると、そんな呼称が出てくる。「老舗和菓店」と「ギャル」というミスマッチに、さっそく興味を覚える人も少なくないだろう。

 

「やっぱりパッと聞いて印象に残るフレーズって大事ですよね」と榊氏自身、その呼称のインパクトを認める。経営状態が悪化していた「をかの」を立て直す原動力となったヒット商品「葛きゃんでぃ」も同様だという。

 

「単に『葛きゃんでぃ』だけなら、そこまでヒットに結びつかなかったかもしれません。『溶けないアイス』というキャッチーな言葉とセットだったからこそ、さらに多くの人に興味を持ってもらえたのかなと思います」(榊萌美氏、以下同)

ベテランに囲まれるなか、発言権を得るためにした創意工夫

一見戦略家のように思えるが、家業である「をかの」入社当初は、経営状態がどうなっているのか、ましてやかなり危うい状態だったということは知らなかったという。

 

「をかの」に限らず、日本の和菓子産業の状況は決して芳しくない。農畜産業振興機構の調査によると、1993年に生産量のピークを付けて以来、30年間右肩下がりだ。総務省統計局の調査も同様で、1世帯当たり年間支出金額の推移は年々減少傾向にあり、2008年の(12,172円)に比べ、2018年(10,268円)は約16%減少している。

榊氏自身、青春時代はそんな家業をとりまく状況を鑑みることもなく、「ギャル」として青春を謳歌していた。そもそも家業を継ぐ気もなかったという。

 

もともと人を喜ばせることが好きだったという榊氏は、将来は教師を目指して教育系の大学に進んだ。しかし実際に教育実習をしてみると自分は教師に向いてないと感じ、挫折感を覚えたという。そんなときに偶然出会った地元の友人のお母さんに聞かれたのが「お店を継がないの?」という一言。自身はすっかり忘れていたが、小学校の卒業式の日に、「家業を継ぐ!」と高らかに宣言しており、周囲はそれを覚えていたのだ。

 

くすぶっている今の自分から見ると、かつての姿の方が輝いていたのではと思いなおし、一念発起。大学を中退し、まずは社会人経験を積もうとアパレル会社で修行したのち、「をかの」に入社した。

 

ただし仕事はアルバイトのスタッフと変わらないものだった。さらに「周囲にはベテランの社員の方も多く、私には発言権はありませんでした。お店の改善点が見えても、『入社したてのお前に何がわかるんだ』という雰囲気で」と回顧する。これは何も老舗和菓子店に限らず、多くの企業組織に通じること。経験の浅い社会人がしばしば当たる壁である。

 

発言権がないなら、どうすればいいのか。「私が今からキャリア10年、20年の先輩に追いつくのは無理だと思いました。だから同じ土俵で勝負するのではなく、新しい仕事を創ればいいと気づいたんです。新しい仕事を創れば、そこでは発言権が生まれるから」

 

「をかの」は大企業ではない。和菓子を作る職人さんはいても、営業や広報を専門に担う人材はいなかった。ならばと店頭に並ぶPOPを刷新、商品写真を自ら撮りおろし、SNS運用を始めた。デジタルネイティブ世代であり、それまでにインスタグラムを真剣にやっていたこともあり、もともとそうした作業は得意だった。

 

「新しい仕事を創って、ようやく同じレベルで話せるようになったと感じました。少なくとも私がやっていることに関しては、私の意見を聞いてくれる雰囲気になったんです」

ふと思い出した、アイスの賞味期限

そんな中で生まれたのが、救世主となる新商品「葛きゃんでぃ」だ。

 

「開発したきっかけは、扱っていた『葛ゼリー』です。おいしいのですが、賞味期限が2日と短く、ロスが多いのをなんとかしたいと思っていました。ふと、昔コンビニでバイトしていたときのことを思い出したんです。先輩スタッフが品出しのときに『アイスって賞味期限がないから、上に新しいものを載せてもいいんだよ』と言っていて。当時、『アイスって賞味期限がないんだ!』と驚いたんです」

 

ゼリーを凍らして食べるのが好きな子供は少なくない。榊氏もかつてそんな少女で、ならばと葛ゼリーを凍らせ、アイスとして商品化した。商品誕生直後に地域の祭りがあり、2日で1,000本が完売するという好セールスを記録した。

 

葛粉100%の本葛をじっくりと練り上げた「葛きゃんでぃ」の、上質な味には自信があった。さらには見た目にもこだわった。イメージの根底にあるのは、アメリカ生まれの陽気なアイスクリームのブランド、コールドストーン。さまざまなトッピングがなされ、見た目にも華やかさがあるアイスクリームだ。

 

ただし地元で販売するのに、単価が高いものはふさわしくない。ならばとパッケージに注力し、カラフルなアイコンに手書き文字が躍る、キャッチーなものが出来上がった。当然、SNSで映えることも考慮した。

テレビを甘くみて大失敗、そこから顧客を逃さないマーケティングへ

そうして出来上がった商品が大ヒットしたきっかけは、意外にも最もマスなメディアであるテレビだった。

 

「それまでSNS運用をがんばっていたのがテレビ局の方の目に留まったようで、テレビ番組のお土産ランキングでいきなり1位になったんです。ただ、正直にいうと当時はテレビを甘くみていました」

 

「テレビ離れ」と言われるが、それでもマスメディアの影響力は大きい。番組内で所ジョージが1位に「葛きゃんでぃ」を選んだ直後から注文は止まらず、過去最多の発注を受けた。ただしそんな予想はしていなかったため、製造も発送も追いつかず。すべての注文を処理するのに睡眠時間を削っても3カ月も要し、うれしい悲鳴をあげている間もなく、多くのクレームを受けることになった。

 

「その間、信頼している職人さんたちも辞めてしまったりして、何のためにこの仕事をしているんだろうと思うこともありました。そんな中、材料の葛を提供してくれる企業の方が、『この苦しい時期にこんなに発注してくれてありがたい』と言ってくれて。喜んでくれる人がいるのが、本当にうれしかったです」

 

この失敗を機に、榊氏は「をかの」のオンラインショッピングもテコ入れした。「葛きゃんでぃ」に関しては、睡眠時間を削らなくても製造・発送できる上限を設定し予約販売とした。

顧客を逃さないマーケティングも心得た。「いますぐに入手できなくても、何日頃届くというのがわかると、買ってくださる方は安心します。売り切れ時には再販売する予定をメルマガで告知していますし、さらにその『メルマガでお知らせしています』というのもわかりやすく記載しています」

 

加えて「葛きゃんでぃ」のヒットだけに頼らず、「をかの」商品全体へのテコ入れも行った。ロスを減らすために商品を厳選、コストを洗い出して価格も見直した。こうした努力が実を結び、当初は税理士から「来月倒産するかもしれません」と毎月のように言われていた経営状態がV字回復した。それも10年かかるかと予想していたところ、わずか3年で。

各メディア、SNSそれぞれの特徴とは

この間もSNSの運用は続け、「元ギャル女将・榊萌美」の名前も浸透してきている。テレビを筆頭にメディアの取材を受け、また講演を頼まれる機会も増えた。

 

「今でもテレビの爆発力はすごいと思いますね。その後、またランキングの番組で取り上げてもらう機会があったのですが、その時もかなりの注文が入りました。もう同じ失敗はしない! と、事前に発送計画を立て、すべての注文を取り切りました!」

 

それぞれのメディアやSNSの特徴も分析、配慮して発信している。

 

「テレビは爆発力はありますが、とりあえず1回注文してみる、という方が多い気がします。SNSは長くじわじわ広がって行く感じがします。WEBや雑誌の記事などは、直接的な注文はそこまで多くはないですが、それを見た企業の方が講演を依頼してくださったりと、信頼度が上がります」

 

ただしSNS運用に関しては、一線を引いているところもあるという。それは決して無理をしないということ。

 

「何時ごろどんな投稿をすると効果的というアルゴリズムは存在します。ただそれに振り回されると、更新し続けることがつらくなってくると思うんです。見てくれている人のためにも、続けていくということを重視しているので、無理はしません」

 

その思いはフォロワー数に対する考え方にも表れている。「フォロワー数が多いことが重要ではないと思っていて。むしろ、インスタグラムは見に来た人が『どれがいいかな』と選べるような、カタログのようにしておくのが大事だと思っています」

自身が今でも撮影まで行う商品写真からは、老舗ならではの上質さと洗練された雰囲気が伝わってくる。新たに立ち上げたブランド「萌え木」はマーブル模様のスタイリッシュな羊羹だ。

一方、榊氏自身がSNSやメディアに出る際には、時に「ポンコツぶり」も晒している。元ギャルという肩書といい、その「人間くささ」に興味を覚え、「をかのってどんなお店なんだろう」と興味を持つ人がいるのは想像に難くない。

 

 

さらにはリアルな店舗での販促もおろそかにしない。「お客さまの中には何十年と通っていただいている方もたくさんいますので、『あの店は変わってしまった』と言われないように心がけています。地元の人に愛される店でありたいというのが基本です」。だからこそリアル店舗でのディスプレイや手書きPOPにも気を配る。

 

「興味を持ってもらうきっかけは、どんな形でもいいと思っています。それが和菓子に親しむことにつながって、笑顔になる人が増えたら」

榊萌美

Moemi Sakaki

五穀祭菓 をかの 副社長

1995年、埼玉県生まれ。東京成徳大学深谷高校、明星大学教育学部教科専門国語コース中退後、アパレル会社勤務を経て2016年、20歳の時に実家の和菓子店「五穀祭菓 をかの」入社。1年目からヒット商品「葛きゃんでぃ」を開発。2019年、副社長に就任。2021年12月には個人ブランド「萌え木」を設立した。

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