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ポストコロナ社会において「オンライン」は必要不可欠なものとなった。
これからどのようにオンラインと向き合うのか、各企業や団体の取り入れ方を学ぶ。

元ギャル女将「弱さもさらけだす」2030年の和菓子のための“きっかけ”づくり

「五穀祭菓 をかの」の経営状態をV字回復させた「元ギャル」の榊萌美氏。大ヒット商品に恵まれるもあえて商標登録はせず、その先の未来を見据えている。自身の家業である和菓子店について、そして業界について、さらに地域について、元ギャル女将はどんな未来を思い描いているのか、話を伺った。

生活必需品ではないからこそ得られる、幸せの機会

埼玉県桶川市で136年の歴史を持つ和菓子屋「五穀祭菓 をかの」。その店舗には、豆大福やどら焼きといった和菓子の定番商品が並ぶ一方で、同店の経営がV字回復する原動力となった「溶けないアイス 葛きゃんでぃ」、季節ごとのカラフルな果物に心躍る「フルーツ大福」など、現代的なセンスを感じる商品もラインナップしている。夏になれば季節商品として、SNS映えするこんもりと盛られたかき氷も販売する。

「かき氷は、これまで和菓子屋さんに入ったことがなかった人が、お店に入るきっかけになればと思って始めました。もともと私自身、和菓子に特別親しんできたわけではありません。だけど丁寧に作っている豆大福を食べると、やっぱりおいしい。きっとほかの人も、食べるきっかけがあればおいしいと感じてもらえると思うんです。だからまずは、今まで毎回洋菓子を買っていた人が『今回は和菓子にしてみようかな』と思ってもらえるようにと考えています」

 

その背景にあるのは、和菓子に携わる人の多くが感じている現状の厳しさだ。以前よりも冠婚葬祭が減り、贈答の需要は減った。手土産でも洋菓子が選ばれる機会が増えている。さらに和菓子を好む顧客は高齢者が中心。「をかの」でも5年前までは店舗にほとんど若年層が訪れなかったという。少子高齢化が進む2030年に向かって、新たな和菓子ファンが生まれない限り、和菓子業界が先細りしていく未来が見えてくる。だからこそ今は、自分と同じ若い世代を中心に、和菓子に触れるきっかけを作ることを優先している。

 

「お菓子は生活必需品ではありません。ただお菓子を買うことによって幸せを感じる機会が増えればと思っています。だから無意味な値上げをしないようにしています。特にコロナの間は、世の中全体が苦しかった。幸せを感じるために和菓子を買う行為が、苦しいものになってほしくないという思いがあります。だからお買い上げいただくものは、たとえ和菓子たったひとつでも、とてもありがたいです」

ロスを減らし、ストーリーを大切に

「ひとつひとつを大切にする」という思いは、その経営哲学にも表れている。

 

テレビ番組でランキング1位を獲得し、1日で2,500本もの大量注文が入った「溶けないアイス 葛きゃんでぃ」。開発のきっかけになった定番商品「葛ゼリー」は賞味期限が2日と短く、廃棄するものも多かったという。もともと和菓子は賞味期限が短い商品が多く、フードロスも少なくない。葛ゼリーはアイスにすることで賞味期限に左右されない人気商品となり、フードロスも減るという相乗効果があった。

さらにコロナ禍には、この方針を加速させた。外出や贈答の機会が減ったこともあり、季節ごとに多数そろえていた商品の数を絞った。人気のフルーツ大福も、土日限定で販売するなど、フードロスを抑えるとともに安定した経営を目指した。

 

その経営方針は、SDGsが重視されエシカル消費を意識する人が増えた現代ともマッチしている。ただし商品数は絞っても、上質な材料を使って丁寧に作ることは変えていない。だからこそSNSやオンラインで紹介する商品は、美しいビジュアルはもちろん、その背後にあるストーリーも添えるように意識していると榊氏は語る。

 

独り占めするよりも、「続けるため」の経営術

「葛きゃんでぃ」が大ヒット商品になった後、周囲の人からは何度も助言があったという。いわく、「商標登録してライセンス化したほうがいい」。それも一案ではあったが、榊氏は商標登録して独り占めする道は選ばなかった。その後、他社から類似商品を発売したいと相談を受けることもあるというが、それも「和菓子を知るきっかけになれば」と快く受け止めている。

 

そもそも、ひたすら事業拡大することを目指しているわけではない。「大きな工場を建てて量産し、販売数を増やすことだけが幸せにつながるわけではないと感じています。地元の人に愛されるお店を続けていき、それをきっかけに和菓子の魅力がより多くの人に伝わることが私にとっては一番大事だと思っています」

 

だから和菓子の製造・販売だけではなく、継続的に経営ができるように、ほかにも事業の柱を立てたいと画策している。企業とコラボレーションして商品開発を行ったり、給食の開発を行ったりと、新規事業を複数立ち上げている。「経営が和菓子だけにかかってしまうと、経営が厳しいと値上げにつながり、お客さまを苦しくさせてしまうかもしれません。それはしたくないことだと思っています」

 

ひたすら拡大を目指すのではなく、ウェルビーイングを重視した経営。そのために多角化経営を目指す途上に、「をかの」と榊氏はいる。

SNSで時にさらす“弱さ”、コミュニケーションの先にあるもの

経営の多角化を目指すためにも、榊氏はコミュニケーションに積極的だ。業界内だけでなく業界を超え、そして地域の人たちの声に耳を傾ける。2030年を見据え、目標を同じくする若き経営者も意識しているという。

 

 

「SNSを運用しているのは、もちろんお店や商品を知ってもらいたいという思いもありますが、自分と同じ立場である若手経営者や後継ぎに見てもらいたい気持ちもあります。私が弱い部分も含めてがんばっているところをさらけ出すことで、自分もがんばろうと思ってくれる方が少しでもいるといいなと思っています」

 

SNSでは、元ギャルらしいスタイリッシュさを見せる一方で、時に友達と一緒に破顔する姿や、弱い自分もさらけ出している。等身大な姿を見せることは、自身を含め、すべての働く人へのエールでもある。

「やっぱり人に『ありがとう』って言われることがうれしいんですよね。これからも人の幸せのため、そして地域のために働いていければと思っています」

 

2030年の「五穀祭菓 をかの」と榊氏がどうなっているのか、期待している人も多いだろう。

榊萌美

Moemi Sakaki

五穀祭菓 をかの 副社長

1995年、埼玉県生まれ。東京成徳大学深谷高校、明星大学教育学部教科専門国語コース中退後、アパレル会社勤務を経て2016年、20歳の時に実家の和菓子店「五穀祭菓 をかの」入社。1年目からヒット商品「葛きゃんでぃ」を開発。2019年、副社長に就任。2021年12月には個人ブランド「萌え木」を設立した。

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